改札の通過をもっとスムーズに! 「顔認証改札」実用化に向けた実証実験が今秋スタート
改札の通過をもっとスムーズに!
「顔認証改札」実用化に向けた実証実験が今秋スタート
2025.09.19

「改札はタッチして通るのが当たり前──」。JR東日本は、そんな固定観念を覆す「ウォークスルー改札」の実現に向けた取り組みをさまざまな方式で進めている。2025年11月上旬には、「ウォークスルー改札」の一種である「顔認証改札」の実証実験が上越新幹線の新潟駅と長岡駅で開始する予定だ。

新幹線利用のお客さまに向けたサービス向上を目指して

「ウォークスルー改札」とは、Suicaのタッチやきっぷの投入が不要な改札の新しい方式だ。改札通過時にSuicaやきっぷを取り出す必要がなくなり、スムーズな入出場が可能となる。今回は、新幹線の停車駅における「ウォークスルー改札」実現に向けた取り組みについて、JR東日本 新幹線統括本部 新幹線電気ネットワーク部 技術計画ユニットの恩田義行ユニットリーダーに話を伺った。

東日本旅客鉄道株式会社
新幹線統括本部
新幹線電気ネットワーク部 技術計画ユニット
ユニットリーダーの恩田義行さん

恩田 JR東日本の目指す「ウォークスルー改札」と一口に言っても、実はご利用になる駅や列車によって活用されるシーンが異なります。例えば、大勢のお客さまが乗車される在来線をご利用になる場合と、新幹線をご利用になる場合では、改札を通る際の状況が全く異なります。

新幹線統括本部としては、新幹線をご利用になるお客さまに対してより良いサービスを目指す立場からこの問題を考えてきました。
例えば、新幹線の場合、紙のきっぷをご利用になる方が圧倒的に多く、しかもきっぷは1枚ではなく複数枚お持ちの方もいらっしゃいます。改札機を前にしてどのきっぷを挿入すればいいのか迷われているケースをよくお見受けします。
また、キャリーバッグなど携帯している荷物の多いお客さまの場合は、いったん荷物から手を離してきっぷを挿入することになりますが、ここでも時間がかかってしまいます。こうした流動障害が起こるということは、お客さまにとって良いサービスではありません。そこで、何らかの技術を使って改札を簡単に通過できないかと考えたのです。

「ウォークスルー改札」の実現に向けたシステムについては、さまざまな方式が検討されている。2025年11月から上越新幹線で開始予定の実証実験は、顔認証技術を用いたものだ。

恩田 JR東日本では「ウォークスルー改札」のさまざまな方式を検討していますが、我々は新幹線をご利用になるお客さまに特化した方式に絞り込んできました。

例えば、東京駅をご利用になっているお客さまは、先述のように大きな荷物をお持ちの方が多いのですが、そのようなお客さまに快適にご利用いただくには、新幹線では顔認証による手ぶらで通れる改札が適していると考えました。現在、顔認証の技術は大きく進化し、各メーカーの技術も円熟してきましたので、この技術を活用しようというわけです。

こうして2024年11月、「顔認証改札」のプロジェクトチームを立ち上げました。このチームはJR東日本のほか、グループ会社のJR東日本メカトロニクス株式会社、メーカーである日本電気株式会社およびパナソニック コネクト株式会社の4社によって構成されています。メーカー2社は顔認証の技術において世界的にも優れた技術をもっていると定評があり、ご協力いただくことになりました。

「顔認証改札」の導入前(左)と導入後のイメージ

JR東日本の駅設備を中心とした鉄道インフラを支える会社・JR東日本メカトロニクス

新幹線の「顔認証改札」実現に向けたプロジェクトチームに加わったJR東日本メカトロニクス株式会社とは、どのような企業なのだろうか。同社 先端技術開発本部 システム開発部の初本 勲担当部長に話を伺った。

JR東日本メカトロニクス株式会社
先端技術開発本部
システム開発部 モバイルシステム課 ICT開発課
担当部長の初本勲さん

初本当社はJR東日本グループの一つで設備関係を担当しております。駅では改札機、券売機、エレベーター、エスカレーター、ホームドアなどを、オフィスでは設備の管理などビルソリューション全体を担っています。また、同じくグループ会社の株式会社JR東日本情報システムと一緒にモバイルSuicaの開発なども行っています。

顔認証については数年前から取り組んできました。最初は2021年のビル竣工に合わせて仙台支社(現:JR東日本 東北本部)のオフィスビルへの入退室管理の手法として実験的に顔認証を導入しました。

我々は当初より顔認証をビルの入退室管理にとどまらず、改札機などへ活用することを目指していました。恩田ユニットリーダーが言及されたとおり、「ウォークスルー改札」にもいろいろな方式があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
新幹線の停車駅で目指すのは大きな荷物を携帯していてもスムーズに改札を通れることで、そのためには顔認証が活用しやすいと考えて提案させていただきました。

「顔認証改札」実用化に向けて今秋実証実験を開始

2025年11月から上越新幹線でモニターによる「顔認証改札」の実証実験が始まる。

恩田今回は上越新幹線の新潟駅と長岡駅に「顔認証改札機」を設置します。モニターは新潟駅~長岡駅の新幹線定期券(Suica FREXまたはSuica FREX パル)をお持ちの方が対象です。この区間を選定したのは、新幹線定期券のご利用が多く、同時に両駅とも実験用改札機を設置するスペースの余裕があるという理由からです。
スケジュールとしては、2025年9月にモニター募集の詳細を発表、10月から公募し、11月から2026年3月まで実証実験を実施する予定です。
なお、今回の実験には一般公募の方と社員が参加する予定です。

モニターは事前に顔の画像データの登録が必要になるのですが、これは長岡駅に設置した専用スペースで撮影し、登録することになります。

初本今回、専用スペースを用意したのは、先述の仙台支社のオフィスビルへの入退室管理で導入した際、各自のスマートフォンで撮影した顔の画像データを使用したのですが、背景に他の方が写っているなどの理由から正確な登録ができず、通行できないケースがあったためです。

新潟駅には日本電気製、長岡駅にはパナソニック コネクト製の異なるタイプの実験機を設置

新潟駅と長岡駅には、それぞれ異なるタイプの「顔認証改札機」の実験機を設置する。その開発に携わったJR東日本メカトロニクス株式会社 先端技術開発本部 システム開発部の野田祥副課長と小嶋淳平主任も交えて話を伺っていく。

恩田今回の実験では、2駅とも顔認証の専用改札機の実験機を使用しますが、それぞれ方式は異なります。新潟駅では従来の改札機の一つを改装する一方で、長岡駅では新設の「顔認証改札機」を使用する予定です。

新潟駅の実験機は従来の改札機に顔認証装置を上からかぶせる方式とし、筐体(きょうたい)や基礎をそのまま生かす形での導入です。既存の改札機を有効活用しつつ、短期間でスムーズな設置が可能です。
見た目は、従来の改札機に比べてきっぷの挿入口やSuicaをタッチする面がないといった違いぐらいしかありません。カメラについてもお客さまが意識されないようなデザインとなっています。

新潟駅に設置される日本電気製「顔認証改札機」の実験機(イメージ)
シンプルで洗練されたデザインが特徴

一方、長岡駅ではドーム型のデザインが特徴的な通路方式を導入します。通路に液晶パネルを入れ、改札機の通路を閉じるフラッパーではなく、音や光で通過の可否を判断できるようにする予定です。どのような演出になるのかは、実験機でお楽しみください。

長岡駅に設置されるパナソニック コネクト製「顔認証改札機」の実験機(イメージ)
未来への期待感を与える斬新で革新的なデザイン

野田私は仙台支社での顔認証システムの計画段階からプロジェクトに参加しています。

今回の「顔認証改札」においては、実験機を設置する両駅に何度も出向いて調査し、さらに弊社内に実験ブースを設置して、どのような顔認証装置が適しているのか実験を重ねてきました。

このように、検討を重ねながら課題を少しずつ解消していくことで今回の実証実験に使う「顔認証改札機」が完成しました。苦労した点もありましたが、徐々に形になっていく充実した作業となりました。

JR東日本メカトロニクス株式会社
先端技術開発本部
システム開発部 ICT開発課
副課長の野田祥さん

小嶋私は2021年の仙台支社での実証実験から「顔認証改札」の開発にかかわってきました。

仙台支社で導入したシステムは、装置を設置する環境によって光の照度などが影響し、認証率が変わってきました。仙台支社の場合、設置場所はガラス張りのエントランスで、朝日や夕日など外光の影響を受けやすい場所でした。明る過ぎても認証しにくいのです。

その点、新潟駅および長岡駅の改札は建物の中ほどにあり、外光の影響を受けることが少ないのです。既に現地で照度などの調整も行っていますが、顔認証システムを導入しやすい環境といえます。

JR東日本メカトロニクス株式会社
先端技術開発本部
システム開発部 ICT開発課
主任の小嶋淳平さん

初本仙台支社での導入は2021年で、コロナ禍のマスク着用が多かった時期です。当時の技術ではマスク着用時の認証精度が低く、また、ヘルメットをかぶった工事関係者も認証が難しかったです。

しかしこの数年間で、顔認証の精度は大きく進歩しました。マスク着用の方や、眼鏡をお掛けになっている方も確実に認識できるようになっています。さらに今回の実験機ではカメラの数を増やして複数の角度から認証を行い、より確実に認識できるように工夫しています。

野田顔認証の精度が進歩したことで、例えば改札を通る際、お客さまの顔の位置が大きく変化しても認証されます。お客さまがケガなどで車椅子をご利用になるケースでもそのまま認証できます。

これは、顔の高さに関係なく確実に認証できるという事です。
例えば、車椅子をご利用の方にとってタッチの有無の差は非常に大きく、顔認証をはじめとする「ウォークスルー改札」が実現できれば、より便利にお使いいただけると考えています。

恩田今回、新潟駅の実験機は日本電気株式会社に、長岡駅の実験機はパナソニック コネクト株式会社にそれぞれご担当いただいています。
長岡駅でパナソニック コネクト製の改札機を通過できたのに、新潟駅で日本電気製の改札機を通過できなかったということがあってはなりません。同じ顔の画像データをどちらの会社の改札機でも同じように認証できることが肝要であり、今回の実証実験の大きな課題の一つなのです。

初本これまでの顔認証は1社のシステムでまとめる事が基本でした。最初の仙台支社で導入した時もそうですし、本社で使用しているのもそれぞれ1社のシステムです。
しかし、将来的な拡張を目指す場合、複数のメーカーの製品を自由に組み合わせて使える環境を整えなければなりません。こうした技術を「マルチベンダー」と呼んでいますが、顔認証でのマルチベンダーは今回の実験が初めてです。

恩田このマルチベンダーの環境整備は、今後、ほかのメーカーにも参加していただくために重要なポイントなのです。

このほか、実証実験では改札機における顔認証の精度や機器設置環境(照度、カメラ角度、温湿度環境など)、改札機を通過する歩行者の速度やカメラと歩行者の距離と改札機や顔認証センサーとの連動、フラッパーレスでの改札機の運用の確認などが評価項目となります。

「顔認証改札」実用化で変わる未来

インタビューの最後に、開発者として携わってきた「顔認証改札」の実用化に向けて夢を語っていただいた。

恩田「ウォークスルー改札」にはさまざまな方式があり、シチュエーションによって使い分けていく必要があります。新幹線の場合、指定券をご購入いただいたお客さまは顔認証による特定が可能であるため、新幹線には「顔認証改札」のシステムが優位と考えています。

こうした新幹線をご利用されるお客さまへの更なる展開も考えています。例えば、JR東日本の提供するサービスに追加した顔認証のデータを使用し、雑踏を避けて入出場が可能な専用の改札口から新幹線をご利用いただく。まさに「顔パス」のプレミア感を体感できるといったことも検討しています。

既に顔認証システムを導入している鉄道もありますので、差別化を図りつつ、斬新なものを目指しています。新規に造るのであれば、今までになかったものを造りたい。誰もが通りたくなるような改札を造ることが夢です。

小嶋今、Suicaでタッチして改札口を通るのが当たり前になっていますが、それが数年後にはタッチレスによって改札口を通れるようになる。そんな世界の実現を目指して、これからも挑戦を続けていきたいと思います。

野田私の子どもの頃は有人の改札口できっぷにパンチを入れてもらって入場していました。それが自動改札機に変わり、さらにSuicaなどのICカードへと変わり、どんどん便利になってきました。お客さまにアクションしていただかずに鉄道をご利用いただけるということは、いろいろな方にとってメリットのあることだと思います。

初本私たちは既存の改札のイメージを、5年、10年という時間をかけて変えていこうとしています。その最初のステップが今回の「顔認証改札」です。さらに今回は新幹線と顔認証の組み合わせによる初めての実験です。今後、改札がどのような形に変わったとしても、お客さまがスムーズに、そして安全・安心にご利用いただけるものを考えていきます。

お一人ずつ「顔認証改札」への思いを語っていただいた
  • 文/松本典久
  • 写真/JR東日本、木田慎一(交通新聞クリエイト)
  • 取材協力/JR東日本
  • ※情報は2025年8月時点のものです。