横浜開港の歴史とともに発展した「横浜クラシック家具」の老舗
横浜開港の歴史とともに発展した
「横浜クラシック家具」の老舗
横浜クラシック家具 ダニエル元町 本店【横浜市中区】
2025.12.19

横浜・元町は明治時代の開港期に外国人向けの店が集まり発展した商店街で、今も歴史を紡ぐ老舗名店が点在している。「横浜クラシック家具 ダニエル」もその一つ。代表取締役社長・咲寿(さくじゅ)義輝さんに、日本における西洋家具の源流の一つともいえる横浜クラシック家具の歴史を伺った。

横浜・元町に根付いた西洋家具の原点

元町と「横浜クラシック家具」の歴史について教えてください。

咲寿横浜港が開港してから、高台の山手に外国人居留地が設けられ、元町はそこに住む外国人向けの日用品を売る商店街として発展しました。
当時の日本には彼らの生活様式に合う家具がなかったため、船大工や馬具職人たちが、外国から持ち込まれた家具を見様見まねでつくったり修復したりするようになったのです。これが「横浜クラシック家具」の始まりです。錦絵にも家具を製造する様子が描かれていて、こうした背景から元町周辺には外国人向け家具を製造する職人が増えていきました。

3代目となる咲寿義輝さん。子どもの頃はたびたび工場を訪れ、職人の仕事を見ていたという

「ダニエル」の創業についても教えてください。

咲寿明治時代初期、横浜の家具づくりは分業制で、木工・布張り・塗装など各専門職が腕を競い合っていました。しかし、関東大震災や戦災を経て外国人居留者が帰国すると家具需要は激減し、多くの店が転業を余儀なくされ、一時は産業存続の危機に陥ったこともありました。
その後、私の祖父である咲寿武道が、残った家具職人や製造業者を集めて協同組合を設立し、横浜家具の技術継承と職人育成に尽力。この運動が実を結び、「ダニエル」の創業へとつながりました。

横浜元町ショッピングストリートのシンボル「フェニックスアーチ」。震災や戦災で被害を受けたが何度も立ち上がり、復興した街の象徴

「ダニエル」という名前には、どのような由来があるのでしょうか。

咲寿「横浜クラシック家具」をブランド化するに当たり、西洋風のカタカナ名を考えたのが始まりです。旧約聖書に登場する預言者ダニエルにちなんで「全ての家庭に幸せを届ける調度品でありたい」という願いを込めています。

永く使い続けられる、手触り良く快適な家具

「ダニエル」のオリジナル家具の特徴について教えてください。

咲寿日本の家具はたんすや座卓のように直線的なデザインが多いのに対し、西洋家具は全体的に曲線を用いたデザインが多いため、曲線加工がしやすい木材が必要となります。そうした加工に適した資材として、今当社で採用しているのが北海道産日高山脈のカバザクラの無垢材です。
カバザクラは木目が美しくて緻密で堅く、長く使用してもゆがみが小さいのが特長です。
伐採後に天然乾燥、人工乾燥、そしてシーズニング(油ならし)を経て含水率を理想的な8%前後に安定させてから加工します。この木材を使い、熟達した職人が仕立てることで、当社独自の家具が生まれるのです。

店舗2階にあるオリジナル家具販売コーナー。オットマン20万円台~やソファ80万円台~などが、取材当日は「元町チャーミングセール」でソファ70万円台~と割引価格に
店舗1階では、職人の家具づくりの様子を公開することもあり、運が良ければ職人技を目の前で見ることができる

家具を購入したい時は、どのような流れになりますか。

咲寿カタログの他、実際に店舗で見て触れていただける家具も用意しています。店頭品を購入することもできますが、寸法・色・素材などを細かく指定できる受注生産が6~7割を占めています。
なお、当社の家具は、木取りから塗装に至るまで、それぞれ専門の職人が担当し、時間をかけて仕上げます。座り心地を追求した椅子など、細部に経験と技が込められています。私たちが心掛けている「100年先まで安心して使える品質」のエレガントな家具をぜひ迎え入れていただきたいです。

咲寿さんおすすめのオリジナル家具は、マンションにもなじむ現代風の仏壇82万1700円(上段のみ47万3000円、下段のみ27万4000円)

職人の育成と技術の継承で、伝統を未来へとつなぐ

新しい家具の製造だけでなく、一般の方を対象とした「家具の学校」やメーカー問わず修理を行う「家具の病院」を開いているそうですね。

咲寿「家具の学校」は、実践的にモノづくりや修理を学べる場として20年近く続けています。職人が先生となり、実演するだけでなく教材やマニュアルを使って教えています。コロナ禍の前は定期的に開いていましたが、現在は短期講座でワークショップを開催しています。
「家具の病院」は1998(平成10)年に立ち上げました。当初は自社製品の修理が中心でしたが、今では依頼の9割以上が他のメーカーのものです。全国から注文が寄せられますが、中には文化財級の修復もあります。自然素材が使われていることも多いため、部品によっては、海外から調達することもあります。修理は3週間から1カ月、文化財級のものだと数年かかることもあります。

同じ横浜市内にある工場。ここで修理、修復の作業を行っている
工場での椅子の布張りの様子
座面を分解して、中には座り心地を追求した新たな素材を入れ直す
工場の壁面には手入れの行き届いた道具がずらりと並ぶ

次世代の職人の育成、またこれからダニエルさんが目指す未来の姿について教えてください。

咲寿昔の職人は、親方のもとで丁稚(でっち)奉公をして仕事を学んでいました。今の職人は、学校でデザインや家具づくりを学んできたという若い人が多いです。昔のように感覚的に見て覚えてもらう形ではなく、マニュアルを作成し、作業の流れを図や文章、また実際の道具を使って分かりやすく指導しています。
また、私たちは「モノを作る」だけでなく、「モノを生かし続ける」ことも使命だと考えていますので、今後も工房見学や「家具の学校」といった活動を通じて、西洋家具の歴史と技術を未来へ継承していきたいと思います。

店のシンボルとなっている赤い椅子は、記念撮影スポットにもなっている

横浜クラシック家具 ダニエル元町 本店

住所
神奈川県横浜市中区元町3-126
電話
045-661-1171
営業時間
10:30~18:30
クレジットカード
利用可
定休日
月曜(祝日の場合は振り替えあり)
URL
https://www.daniel.co.jp/
  • 文/千葉香苗(アド・グリーン)
  • 写真/岩堀和彦
  • ※情報は2025年11月時点のものです。
  • ※料金・営業時間・定休日などは変更になる場合がありますので、事前にご確認ください。
  • ※表記されている料金は、特別な注記がない限りすべて税込です。
  • ※年末年始、大型連休、お盆休みなどは一部省略してあります。