2025年3月15日から中央線快速(東京~大月)・青梅線(立川~青梅)で、グリーン車サービスが始まる。サービス開始よりひと足早く2024年10月13日に3編成の12両編成列車が普通車(お試し期間としてグリーン券不要)で運行を開始した。12両編成の運行にあたっては、JR東日本ではグリーン車の新造をはじめ、駅改良工事や信号工事などさまざまな地上設備の工事を行った。今回はホーム延伸工事を中心とした輸送改善プロジェクト工事や、グリーン車導入を目前に控えどのような整備を進めているのか話を伺った。
2025年3月15日サービス開始、中央線快速・青梅線グリーン車12両化への苦難
3月15日のサービス開始を前に、中央線快速・青梅線にはグリーン料金不要で乗車できる「グリーン車お試し期間」が設けられた。実際に乗車してみると、ゆったりとした空間で乗り心地もよく、2階席からの展望はこれまでに味わったことない視界が広がり、普段見慣れた風景も新鮮に感じる。
本格的にサービスがスタートする3月15日からは、どのようなサービスになるのだろう。グリーン車導入に向けてプロジェクトを推進してきたJR東日本 八王子支社 鉄道事業部 モビリティ・サービスユニットの抱山冴子さんと小林純さんに伺った。
八王子支社 鉄道事業部
モビリティ・サービスユニット(設備工事・グリーン車導入推進)
抱山冴子さん
抱山
JR東日本の首都圏では、お客さまのニーズにお応えして東海道線・横須賀線方面、高崎線・宇都宮線方面、常磐線方面、総武線快速方面と主要路線でグリーン車の導入を進めてまいりました。今回の中央線への導入で、首都圏を支える主要5方面(東海道、中央、東北、常磐、総武方面)ともグリーン車をご利用いただけるようになります。
3月15日からグリーン車サービスをご利用いただけるのは、東京~大月間を走るE233系電車で運行するすべての中央線快速電車です。また、中央線快速と直通運転を行う青梅線立川~青梅間の電車もグリーン車サービスを実施いたします。グリーン車は4・5号車に連結され、一部列車(大月駅で河口湖行きに分割後の列車)を除き12両編成で運転されます。また、お試し期間中は乗務していないグリーンアテンダントも乗務します。
小林中央線にグリーン車を導入にするにあたり、これまでの主要路線と大きく異なる点があります。他の普通グリーン車が導入されている路線では、2両を普通車からグリーン車に入れ替えて対応していましたが、中央線では10両編成の列車に、グリーン車を2両増結することになりました。そのため単にグリーン車を用意するだけではなく、駅のホーム延伸工事など、12両編成での運転に対応するためにさまざまな改修工事を行う必要がありました。
八王子支社 鉄道事業部
モビリティ・サービスユニット(設備工事・グリーン車導入推進)
小林純さん
中央線快速や青梅線のグリーン車導入は、従来編成の普通車をグリーン車に入れ替えるのではなく、グリーン車2両を新たに増結するかたちで進められた。しかも、この12両化をするにあたり、首都圏の大動脈で列車が高密度で運転される日常の運行を確保しながら進めてきたというのだから、驚きだ。中央線快速は10両編成から12両編成となり、グリーン車の定員は2両合計で180名に。この分、編成定員が増えて、単位時間当たりの輸送力は増強され、混雑緩和も期待できるという。
運行区間の全44駅を12両編成に対応させる
中央線(東京~大月)と青梅線(立川~青梅)を12両編成に対応するため、具体的にどのような工事を行ったのか。JR東日本 東京建設プロジェクトマネジメントオフィス 新宿プロジェクトセンターの今尾友絵さんと齋藤正樹さんが教えてくれた。
今尾中央線快速は10両編成で運行しているため、各駅の設備もこれに対応しています。今回、これを12両編成に対応できるように改修しました。ホームでいえば車両2両分に相当する40mほど延伸することになります。
中央線ではすでに12両編成の特急も運行しており、特急列車が停車する駅では12両編成に対応済みです。ただし、特急停車駅であってもすべてのホームが12両編成に対応していたわけでありません。例えば、2024年3月まで特急が停車していた三鷹駅など、特急の発着に使われていなかったホームは10両編成対応のまま運用されてきました。
今回は中央線快速が発着する全駅・全ホームを12両編成対応としました。青梅線の立川~青梅間に直通する列車もあり、駅の数でいうと、中央線(東京~大月)と青梅線(立川~青梅)の44駅でホーム延伸工事などを行いました。
ただし、ホームを延伸するといっても、その工事内容は駅ごとに異なります。特に用地が制約となりました。ホームをどちらに延ばして必要な長さを確保するのか。さらにお客さまのホームでの動線や滞留状況も調べ、制約がある中でもより利用しやすいホームをめざしています。そのため、改修するホームの設計に入る前に、駅ごとに細かく精査し構想を立てていきました。
東京建設プロジェクトマネジメントオフィス
新宿プロジェクトセンター
今尾友絵さん
今尾個別の事例となりますが、武蔵境駅や東小金井駅の工事はやや特殊な対応となりました。両駅では2009年までに高架化が実施されています。今回、両駅ともホーム延伸を行っていますが、その延伸部分が高架橋から外れています。高架化した時点では、ホームの延伸を想定していなかったのです。そのため、この部分では新たに地上からホーム部分を支える柱を増設する工事も行っています。
齋藤工事の実施にはスケジュールの構築や管理も重要な作業となります。会社としてグリーン車導入を決めるとともにサービスインの日にちも決まります。期限のある中で、工事をどのように進めていくか、設計から施工まで細かく計画していくのです。
また、駅によってはホームを延ばすだけでなく、分岐位置など線路の形を変えねばならないところもありました。中には営業運転終了後だけでは工事できず、運休して施工したところもあります。こういった工事では関連部署と調整も図らねばなりません。
今回のプロジェクトでは改修すべき駅数が多いため、実際の施工はJR東日本の首都圏本部や八王子支社と分担し、東京建設プロジェクトマネジメントオフィスでは、拝島駅や高尾駅をはじめ大規模な改修工事を担当しました。
東京建設プロジェクトマネジメントオフィス
新宿プロジェクトセンター
齋藤正樹さん
信号設備や線路配線の改修も必須となった
12両編成導入に向けた駅施設の改修は、ホームの延伸だけでは完結しない。ホームの長さが変われば、列車の停車位置も変わるなどさまざまな変化が発生し、それに対応した調整も求められるのだ。列車の安全な運行に関わる信号システムの改修を担当するJR東日本 電気システムインテグレーションオフィス プロジェクト推進部 信号ユニットの大槌光司さんがその苦労を教えてくれた。
大槌ホームを延ばすということは列車の停止位置が変わります。それによって信号機の位置も変わってきます。これは信号機の移設だけでなく、ソフトウエアの変更も行わねばなりません。今まで1つの駅で信号機を改修するといったことは経験していましたが、線区単位でこれだけの改修を加えるのはなかなかないことです。
さらに信号機のソフトウエアの変更も手間がかかります。安全な運行を支えるため、変更したソフトウエアを現場で実際に試行しながら動作を確認します。これは営業運転終了後に新しいソフトウエアに切り替えて行います。そしてテスト終了後に元のソフトウエアに復帰して始発電車を運行させる。これを何度も繰り返して正常な動作と安全を確認したうえで、本番の切り替えとなります。
また、テストといってもスイッチひとつで切り替わるのではなく、システムの立ち上げに時間がかかります。全体の作業時間が限られているので、立ち上げに時間がかかると、その分、テストに使える時間が減ってしまいます。そこでまったく同じ機器を用意して、立ち上げ時間を短縮しました。もちろん、同じものを二重に用意するわけですから経費は増えてしまいます。そこは、これが工期短縮になるということで会社に認めてもらいました。
こうして新しい信号機を準備していきましたが、該当線区を一気に切り替えることは難しく、土木工事などの進捗に合わせてブロックごとに切り替え、その作業は30回を超えています。こうした作業のスケジュールの構築と調整、管理がとても大変でした。
電気システムインテグレーションオフィス
プロジェクト推進部 信号ユニット 信号空港アクセス中央グループ
大槌光司さん
拝島駅の改修と定位置停止装置の導入がプロジェクトを支えた
12両編成への対応改修作業は、ホームの延伸に始まり、線路配線の変更、そして信号システムの調整など極めて多岐にわたる作業となる。一方、そうした改修を行う駅や線路は現役の施設として使用されている。普段どおりに営業しながら、並行して作業を進めていかねばならない。運行に関わる部分の工事は、最終電車が車両基地に戻り、そして始発電車が走り始めるまでに行う。現場で作業できる時間は数時間しかない。それを積み重ねていくことで完成へと到達できるのだ。
こうした作業を進めていく中で、その手順に余力を与えたり、工期を短縮したりする工夫も行われてきた。
齋藤今回のプロジェクトの中で早い段階で動き出したのは拝島駅の改修工事でした。私は設計で関わりましたが、拝島駅にあった電留線を6線から12線に増やす工事でした。用地は既存の保守基地線を再整備することで生み出しました。線路を新設する工事で日中に作業ができましたが、大規模な工事でしたので4年という長期間にわたる工事でした。
大槌私も最初に担当したのは拝島駅です。駅単体で見ても線路切換など大規模な工事でしたが、実はグリーン車導入に向けたクリティカルパスともいえる要の作業でした。
電留線は営業時間外や閑散期などに運行しない車両を停車しておくスペースですが、拝島駅に余力をつくることで、車両基地やほかの駅の車両を引き受けることができるようになります。そうすることでそれらの場所での工事が始められるのです。逆にいえば、拝島駅の電留線増設が完了しなければ、ほかの工事が始められないわけです。
大規模な線路配線の改修工事はほかにも行われていますが、拝島駅の工事はプロジェクト全体で見ても重要な工事だったのです。
また、今回のプロジェクトではTASC(タスク)と呼ばれる定位置停止装置も導入しています。本来はホームドアを設置する時に使うシステムで、運転士の操作を補助して列車を定位置に停止させるものです。
中央線のホームドア設置は、未設置でこれから工事をする駅もありますが、全駅前倒しでTASCを設置しました。ホームの長さは社内規程で、編成長に前後5mを足したものとされています。運転士の操作に対して余裕を持たせてあるのです。一方、TASCでは定位置に停止するので、余裕は前後1mにすることが可能となります。中央線12両編成での規程ホーム長は251mですが、TASCを前倒しで設置することで必要とされるホームの長さは243mとなり、ホーム延伸工事のコストダウンになるわけです。
当初の計画にはなかったのですが、将来的な投資を行うことで、コストダウンと工期の短縮にもなるということで実施となりました。
3月15日のサービスインに向けて
駅や車両基地などの12両編成対応の改修が完了した。こうして12両編成の導入体制が整ったところで、いよいよグリーン車の組み込みが始まった。この作業は中央線快速として運用されているオレンジ色のラインカラーを掲げたE233系のすべての編成で行うことになる。一気に12両化することは不可能で、組み込み作業は2024年から段階的に行われてきた。準備が整った編成から順次運転を開始し、2024年10月13日からの「グリーン車お試し期間」となった。
一方、車両がそろったからといって、すぐにグリーン車サービスを始められるわけではない。お客さまへのご案内に始まり、駅員や乗務員、車両清掃スタッフなどさまざまなスタッフの準備も必要となる。こうした体制が整ったところで、初めてグリーン車サービスがスタートするのだ。
抱山私の部署でサービス開始に向けた全体のオペレーションの検討を担当してまいりました。駅係員や乗務員の取扱い、お客さまへのご案内方法の検討なども担当しています。
また、グリーン車は駅で折り返す際に車内清掃を行いますが、東京駅では最短2分程度と折り返し時間が限られているため、座席の向きを自動で変える在来線車両として初めてとなる機能を導入しております。さらに、短い時間の中で円滑な作業ができるように、より実践に近い形でのシミュレーションも実施し、作業の組み立てやスタッフの訓練も行っています。
抱山TASC導入には首都圏の輸送を担う輸送密度の高い中央線ならではの重要性が深く関わっています。コストダウンかつ正確な輸送を維持するために、停止位置がぴたりと決まるTASCを導入しました。運用開始時は10両編成と12両編成が混在したため、ホームに表示されている案内シールの変更や駅をご利用いただくお客さまへのご案内を実施しました。
小林2025年3月15日のダイヤ改正からサービスが始まりますが、その後も私たちの作業は続きます。
例えば、車掌がホーム上の安全確認を行うために設置しているカメラは、車掌室から見るモニターに合わせて設置されています。電車の編成両数により停止位置が異なり、車掌がモニターで乗降状態を確認しなければいけない位置も変わるため、モニターを12両用・10両用にそれぞれ設置したホームもあり、10両用モニターは撤去が必要となります。
ホームごとに残す設備、撤去する設備が異なるため、作業も多岐にわたります。お客さまには引き続きご不便をおかけしますが、こうした工事も継続して行っていくことにご理解いただきたいと思います。
中央線快速・青梅線グリーン車サービスは2013年の方針発表から十余年の歳月をかけ、ようやく3月15日からサービスインとなる。このプロジェクトの途上、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックが発生。さらには急激な需要増や貿易摩擦などで半導体不足となり、車両や信号システムを支える電子機器が入手困難になるといった影響を引き起こした。そうした困難を乗り越えてのグリーン車サービススタートである。より快適な移動空間をめざすJR東日本の思いがまたひとつ実ったのである。
Column
グリーン車の運行区間、車内設備やサービスは?
■グリーン車の運行区間
中央線快速(東京~大月間)と、中央線快速(東京方面)と直通運転を行う青梅線(立川~青梅間)です。
■車両設備とサービス
2階建てグリーン車は、東京寄りの4・5号車に連結され、すべての座席に電源コンセント・テーブル・ドリンクホルダーを備えるほか、JR-EAST FREE Wi-Fiも完備。4両目のグリーン車と6両目の普通車にトイレが設置されています。
■グリーン車に乗るには?
モバイルSuica・Suicaが便利でおトク!
グリーン車の乗車には、乗車券とは別に「普通列車グリーン券」の購入が必要です。
モバイルSuicaやSuicaで「Suicaグリーン券」を購入すると、紙のきっぷよりおトクに乗車できます。
※通路やデッキにお立ちの場合でも、グリーン券は必要です。グリーン車が満席のため、普通車に移動される場合は、証明書を発行しますので、グリーンアテンダントへお申し付けください。
※駅や車内でのグリーン券(紙のきっぷ)をお買い求めの場合は、通常料金が適用されます。
※「(JRE POINT用)Suicaグリーン券」のご利用には事前にJRE POINT WEBサイトへのモバイルSuica・Suicaの登録が必要です。
Column
JRE POINTやビューカードで、おトクに乗車する方法
① 購入でJRE POINTを貯める
「Suicaグリーン券」を購入する際、JRE POINT WEBサイトに登録したモバイルSuicaまたはカードタイプのSuicaを利用すると、モバイルSuicaの場合ポイントが2%(50円ごとに1ポイント)、カードタイプのSuicaの場合はポイントが0.5%(200円ごとに1ポイント)が貯まります。
② JRE POINT 600ポイントで乗れる
貯まったポイントはJRE POINT会員限定「(JRE POINT用)Suicaグリーン券」で、乗車区間にかかわらず、JRE POINT 600ポイントの交換で利用できます。
さらに、「JRE POINTステージ」プレミアム会員なら400ポイント、ステージ3会員なら500ポイントでおトクに交換できます。
③ ビューカードのお支払いで、もっともっとおトクに!
購入の際にビューカードでお支払いいただくと、JRE POINTがおトクに貯まるサービス「VIEWプラス」が適用されます。ゴールドカードなら通常のJRE POINTに加え、さらに最大8%のJRE POINTが貯まるので一層おトクにご利用いただけます。
- 文/松本典久
- 写真/岩堀和彦
交通新聞社 - 協力/JR東日本
- ※ 内容は2025年1月現在のものです。
- ※「Suica」「モバイルSuica」は、東日本旅客鉄道株式会社の登録商標です。


